ホヤは植物のような根を持っており、海底の岩に固着して生活します。おまけに皮の部分が植物と同じセルローズで出来ているため、外から見た限りでは植物と思う人がいるのも無理のないところです。しかし、中を開いてみよう。まっ先に目につくのは灰白色の膜状のもの、これが呼吸をする“エラ”、ついで黒褐色の塊、これは肝臓、その他、口、胃、腸、肛門、心臓、さらには発達の程度はいわめて低いが脳も持っています。これでは確かに動物です。しかも、子供の時代には短時日ではありますが、われわれの脊椎によく似たセキ索というものを持っているので原索動物という仲間に分類され、魚に次ぐ高等な動物なのです。



ホヤの種類は、我が国だけでも百数十種類もありますが、その中で食べられるのは「マボヤ」1種類のみ。マボヤは北海道と本州に広く分布していますが、とくに多いのは宮古付近から金華山付近までの三陸沿岸の岩礁地帯。したがって以前これを食用としていたのは宮城県を中心とした福島県北部、岩手県南部、山形県と秋田県の太平洋岸寄りでした。とくに宮城県の古川地方では正月の雑煮のダシに必ずホヤを使う習慣があったという話も聞きます。しかし、交通の発達、観光客の増加、海岸地域の人々の都会への進出、さらには加工保存技術の進歩によって、ホヤはだんだん全国的な食べ物になりつつあります。とは言っても独特の味と香りは初めての人にはなかなかなじみ難いもの。しかし二度三度と食べているうちに病みつきになるのが特徴です。酒にはもってこいの肴です。



昭和40年以前食用にされていたホヤはほとんど大部分天然産のものでした。かぎで取るか、潜って採取し利用していましたが、40年以降に養殖技術が進歩し、今では食用にされるホヤのほとんどが養殖ものです。
ホヤの養殖は約70年前、宮城県唐桑町の一漁業者によって開発されました。しかし収穫まで3、4年もかかるので、この間長持ちする養殖資材(ヤマブドウのつる)が少なく、普及するまでには至りませんでした。それが化繊ロープの開発にともなって急激に普及し、現在では金華山以北の各浜で広く養殖が行われ、年間2、3億円の水揚げがあります。
ホヤの産卵期は正月頃。したがって、カキ殻などでつくった付着器を12月中に海の中に垂下します。やがてホヤの子供が付着し、5、6月頃には赤いグミ程度の大きさになります。10月頃これを種苗として太いロープに巻きつけ、4〜10メートルの深さに垂下養殖します。3、4年もたつと10センチ位になり、収穫できるようになります。



ホヤが一番うまい時期、いわゆる旬は天然もののキュウリの出回る頃。キュウリの味とよくマッチするところは、自然の妙と言ったところです。しかし、10月末頃ともなるとやがて卵を持つようになり、肉も薄くなるので不味くなります。正月頃産卵を終えると、やがて春先の雪解け水で発生した豊富なプランクトンを食べて再び美味しい季節を迎えます。したがって、ホヤの食べ頃は4〜10月とお考えください。