●養殖の歴史   宮城県におけるカキの養殖は、17世紀に松島湾でカキの天然稚貝を海面に散布して生育を図り、かつ、その採取日を定めたのが始まりと言われています。19世紀後半になると松の木を海中に立て、種苗を付着させ、翌年付着した稚貝を適当な場所に移して成長させて採取するようになりました。
1899年には塩釜に宮城県水産試験場が設立されて、カキ養殖試験が本格的に進められるようになり、従来の方式や広島方式からさらに進んだ「す立棒刺棚」方式が考案され、この方式が奨励された結果、松島湾を中心としてカキ養殖業は発達し、生産額が増加してきました。
1923年には神奈川県においてカキの垂下養殖法が開発されました。この方式はこれまでのひと建式、地蒔式養殖法に比較して、管理、漁場利用、生産性において優れていました。宮城県においては1926年にこの簡易垂下式が松島湾や万石浦に導入され、普及したことからカキの養殖方法は一新されました。これと前後して、カキ殻を利用した垂下式採苗法が考案され急速に普及したことから種苗の安定的確保が可能となりました。
1930年になると水深の深い場所でも筏式養殖法が県水試等によって開発され、今まで養殖のできなかった気仙沼湾にも取り入れられ、志津川、雄勝湾、長面湾、大原湾、荻浜湾にも拡大普及するようになりました。
1952年には宮城水試気仙沼分場に等により延縄式垂下養殖法が開発され、1955年以降岩手県まで普及することになりました。この方式の導入によって新たに外洋性漁場が開発され、カキ養殖は飛躍的に発展していくことになります。この延縄方式の発展はワカメ、ホヤ、ホタテガイの養殖にも応用され、沿岸域の養殖の発展に大いに貢献することになりました。1962年には沿構事業の経営近代化促進対策事業における新たな試みとして沖合養殖保全施設が女川湾ほか5ヶ所に設定されました。この施設は、その後、各地に設置され、従来の施設では利用できなかった外洋漁場が開発され、カキの生産量はさらに発展することになりました。
すなわち、宮城県におけるカキ養殖は地蒔方式、ひび建て方式、筏方式、延縄方式と養殖方法の革新を重ね、この間、養殖資材の耐久性の向上も加わり、内湾域から外洋域へと漁場を拡大し、生産量の増大へとつながってきたものです。最近では、延縄式垂下養殖施設での波浪等によるカキ脱落防止のために漁協青年部が中心となってブランコ方式を開発するなど、養殖施設の改良が図られています。

●生産動向   (1)生産量の推移
全国におけるカキの生産量の推移を右のグラフに示しました。
カキの生産量は年によつ変動がありますが、最近では漸減傾向にあります。


[鮮カキ主要生産県別生産量の推移](1月〜12月)
広島 宮城 岡山 岩手 三重 石川 その他 合計
H1 30,348 4,180 3,223 874 1,118 646 2,177 42,566
H2 29,160 4,407 2,705 1,011 804 616 2,225 40,928
H3 27,944 4,387 2,676 1,026 868 479 2,208 39,588
H4 26,529 4,806 3,082 1,128 966 537 2,503 39,551
H5 25,177 4,803 2,506 1,219 937 847 2,143 37,626
H6 24,504 4,431 2,386 1,117 785 473 1,859 35,555
H7 23,920 5,014 2,725 1,056 873 493 2,204 36,285
H8 21,825 5,268 3,645 1,321 605 561 2,182 35,407
H9
(%)
20,687
58.6%
4,791
13.6%
4,750
13.5%
1,216
3.4%
417
1.2%
560
1.6%
2,860
8.1%
35,281
100.0%
資料:農林統計より 単位トン 平成9年度は速報値

(2)地区別生産量
宮城県におけるカキ産地は県北の気仙沼地区(唐桑町・気仙沼市・本吉町・歌津町・志津川町)、県央の牡鹿半島地区(河北町・雄勝町・女川町・牡鹿町・石巻市)、県南の松島湾地区(鳴瀬町・松島町・利府町・塩釜市)の3つに大別されます。このうち、牡鹿半島地区の生産量が最も多く、県全体の約70%を占めています。市町村別では、万石浦、牡鹿半島周辺を漁場にもつ石巻市が県内の生産量の40%以上のシェアを有する有力な産地を形成しています。石巻市に次いで牡鹿町、女川町の生産量が多く、県内の生産量の約10%のシェアを有しています。

(3)生産時期
宮城県における生食用カキの取扱期間は9月29日から3月31日までです。ただし、加熱調理用に限って4月末頃まで取り扱っています。加熱調理用カキの出荷終期は年によって変動があり、養殖業者にむき残しがある場合は連休前まで出荷されることもあります。
県漁連の近年3年間の月別取扱量の変化を表に示しました。出荷のピークは11、12月であり、年が明けると出荷量は減少し、4月以降は極く僅かな量になります。

[宮城県漁連における月別の出荷割合](単位:トン)
  9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 合計
1996年 66.6 1039.5 975.6 876.5 618.9 566.0 269.4 32.4 3.5 4448.4
1997年 67.9 964.9 845.0 932.0 762.4 654.8 133.8 67.8 125.1 4553.7
1998年 82.4 1100.7 1057.6 1048.2 773.4 604.6 271.7 20.4 4.7 4963.7

●養殖施設の構造
 と設置方法
  宮城県で行われている養殖方式は、木架式養殖・木架式養殖・延縄式垂下養殖の3タイプに分類されます。

(1)木架式養殖

木架式養殖は松島湾のように水深の浅い海域で行われている養殖方法で、ナラやクヌギなどの木材を棚杭として筏を立て、クリやナラなどの桁杭を孟宗竹などで筏に組んで、その下にカキの付着原盤を垂下する方式です。松島湾の場合の筏は54×3.3mですが、地区によってサイズは異なります。    ▲木架式養殖施設の概要

(2)筏式垂下養殖
筏式垂下養殖は比較的水深が深く、かつ静穏な海域で行われる養殖方法で、杉や孟宗竹を縦横に組合せ、海面にプラスチック製の浮樽を使って浮かべ、四方をアンカーロープで固定する方式です。筏の大きさは5.4×9mで、これに約200連の付着原盤を垂下するのが一般的です。    ▲延縄式垂下養殖の概要

(3)延縄式垂下養殖
延縄式垂下養殖は水深の深い外洋で行われている養殖方式で、宮城県内の主力の方式です。この方式は海面に浮かべた樽(木製ないしはプラスチック製)の両端をロープで連結し、このロープにカキの原盤を垂下していきます。施設規模は100m×2本で1台を構成し、垂下連は100m当たり160〜180本を垂下します。この方式を改良したのがブランコ方式と呼ばれるもので、水面下2m程度の水深に桁網を張り、ここに垂下する方式で、海表面の動揺が直接垂下連に影響するのを防ぎカキの脱落を防止するように考案されました。県内の生産量の約9割が延縄式によるものです。    ▲延縄式垂下養殖の改良型のブランコ方式